一念発起した理由

私が58歳の時、夫(当時61歳)と二人、ただただフィンランドが大好きだからという理由だけで右も左もわからないままフィンランドに移住してきた。
外国に住めば、そのうち話せるようになるだろうとタカをくくっていた。と言って勉強しなかったわけではない。単語も文法も毎日2時間くらい、一生懸命勉強していた。移住1年目の秋から「外国人のためのフィンランド語教室」(週1回3時間、8か月間で初級コース終了)に通い始め、2年目も中級コースに通った。受講生の最年長はもちろん私と夫で、他はほとんどが様々な国から交換留学生でやってきた現役の大学生。あと数人、結婚とか就職できた人たちだったが、その人も私たちよりはるかに若い年代だった。講義も教科書も英語なので、まずその英語を理解することから始めなければならず、授業について行くためには、授業のある日以外の日は毎日予習と復習で明け暮れる毎日だった。おかげで終了テストは2回とも1、2番の成績を修めた。
完全とは言えないが、文法の理解はかなり深まったと思う。辞書さえ引けば、そこそこ文章を訳せるようにもなった。
かなりの時間はかかったものの、Minna Canth 著の脚本も2冊翻訳し、出版もした。

だけど、しゃべれない!!
とにかくフィンランド人は非常に早口で、「ゆっくり話して」と、お願いしてもほとんど話すスピードは変わらない。どうも、ゆっくり一言ずつ話すことが出来ない国民性なのかもしれない。
そのスピードの話の中から、知っている単語をひとつでも必死で探しだし、あとはそこから想像力をフル回転で働かす。
けれど、一つも知っている単語が見つけ出せなかった場合は、本当に悲劇だ。何を言っているのかさっぱりわからない。

移住してもうすぐ丸6年。
「何年住んでるの?」という質問にこの年数を答えることが、恥ずかしくなり始めている。%e3%81%a9%e3%81%86%e3%81%97%e3%82%88%e3%81%86
いつか話せるようになるだろうという甘い考えは、木っ端微塵に吹き飛ばされた。何といっても還暦を超えているのだ。その上、人と会うよりトナカイやウサギと会う方がはるかに多いこんな森の中で住んでいるのだ。もう一生しゃべれるようにはなれないなぁと半ばあきらめていた。

だが今年の夏、千野栄一さんが「外国語上達法」でおっしゃっている、「まずはとにかく1000語覚えること」という言葉にハッとした。
もちろん、フィンランド語教室のテストの時は、教科書に出てくる単語は格変化やスペルまで暗記した。しかしこうして覚えた単語は学生時代にやっていたことと同じで、テストが終わると同時にきれいさっぱり忘れてしまっている。
お恥ずかしい話だが、目の前にあるものの名前もあやふやで、「トースターはなんて言うんやったかなぁ、確かテストの時に覚えたはずやけど…」というものばかり。
これでは話せなくて当たり前と、妙に納得してとにかく1000語覚えようと、一念発起したわけだ。
試行錯誤を繰り返し、この老体にムチ打って、何とか今年中に1000語到達するのではないかというところまできた。
相手の話す言葉から知っている言葉を探し出せる確率が、ほんの少し増えた気はするけれど、さっぱりわからないという時もまだまだある。

果たして、フィンランド人とうまく会話ができるようになるのだろうか?
うまく会話できるようになるのが先か、はたまたボケるのが先か、もうタイムリミットは迫っている。
人生最後の挑戦の記録である。